無題。４～６

４

 

「これから毎日この坂を登るのか～。痩せそうだな～」

千駄木学園は千代田線千駄木駅から歩いて5分と公立の学校と比べて駅から近くて嬉しい。だけど、この団子坂は結構キツイよ。何度の傾斜なんだろうか？パッと見で10％だから10度くらいかな？ネットで検索したら、江戸川乱歩の「D坂殺人事件」はのD坂ってこの団子坂らしい。団子坂を登ると森鴎外図書館もあるし、文豪がここに住んでいたのか～。

 

まぁ、僕は数学の先生だから全く気にならないなんだけどね。

 

 

そんなこんな古い街並みを歩いていると見えてきたぞ、これから60歳まで働く千駄木学園が。新しい校舎だけど、なんというかコンクリートの打ちっぱなしっていう感じで、あんまり良い印象は無いんだけど、トイレとかはきれいそうだね。あと、なんかアニメの舞台になったとか。

 

高校受験案内にも、芸能人の卒業生がたくさんいるというか、現役のアイドルも在籍しているらしいね。そういう子の担任とかしたら、TVとかにも出られるのかな？

 

「江口君は、在校時はどんな生徒でしたか？」

「非常に真面目でクラスの人気者でしたよ。成績はちょっと悪かったけど・・・」

 

いや、こういうときは欠点とか言っちゃいけないのかな？

 

おっと、そんなことを妄想している学校に着いたぞ。

 

「こんにちは。数学教員の採用試験に来た、大田と申します。本日は宜しくお願いします。」

 

ん？そうだよ。まだ採用決まっていないよ。だけど、受かる気がしてならないんだよね。苦笑

 

 

 

５

 

事務のお姉さんに案内された場所は事務室前の会議室だった。入ると既に、4人の受験者が待機していた。1人は背の高い、物静かそうな人。もういい年だとおもうんだけど、なぜか坊主だ。ツルツルの。そういえば、この学校は仏教の学校だから、お坊さんなのかもしれない。残りの3人は、採用試験なのに談笑している。きっと、この学校の講師なんだろうね。3人の中にも坊主が1人。いや、ハゲだな。ツルツルだし。

 

・・・ということは、5人中4人は千駄木学園の関係者？僕だけ部外者？う～ん、なんか根拠の無い自信という堤防が見事に決壊したね。3月末の募集だから、誰も受けないんじゃないかなって、事実上1人だから自動的に決定！

 

「武藤さんが教えてくれたから僕は合格できました。有難うございます。もし、良ければ今度食事にでも！」

 

なぁんて、全く意味の無い妄想をしていたけど・・・、う～ん緊張してきた。トイレに行ってこようっと。

 

トイレは予想通りきれいだった。良い匂いもするし、やっぱり職場環境で一番気になるのはトイレだよね。

 

用を足しながら、トイレを観察していたらドアが開いた。

「こんにちは。」

「・・・。どうも。」

この学校の教員らしき人が現れたから挨拶したけど、どうやら不審者と思われたようだ。というか、あっちのほうが不審者だね。白衣で坊主だし、目を合わせてくれないで挨拶とか。声も小さいよね。あれで黒板の前で話ができるのかな。

 

しかし、この学校の先生坊主っていうかハゲが多くないか？

 

会議室に戻って、受験者の数は5名で変わらず。ということは倍率が5倍か。坊主率は4割。やっぱり、この2人のどちらかが、選ばれるのかなぁ～？？

 

負けないよ～。

 

６

最初の試験は数学の試験。今回はベクトルと関数だった。ベクトルは得意なのでなんなくたぶん合っているだろう。関数もなんとか答えに辿り着いた。途中で必要十分条件で確認するところもあったけど、まぁ大丈夫だろう。

 

続いては作文。「生徒から「数学なんて何の役に立つの？」と質問されたら、あなたは何と答えますか？」というタイトル。正直に「数学が存在しなかったら2進法がないから、デジタルが存在しないんだぞ。ということはPCやスマホなんか存在しない世の中になっちゃうよ～。それは困るだろう～」ということをもうちょっと硬い感じで書いてみた。まぁ、これも練習どおり。

 

さて、一番の難関である面接だ。面接は受験番号順ということで最後。暇だから、耳を澄まして、講師らしき3人の話を盗み聞きするものの、どうも、来年度の持ち時間の話をしているらしく、参考にならない。

 

それもそうだよね。彼らは、知り合いと面接するわけだから緊張なんてするわけないよね。僕はもちろん緊張しているので、もう一度、トイレに行く。

 

「ふぅ～。そろそろ会議室に戻るかな・・・」

なんでこんなトイレは落ち着くんだろうか。やっぱり個室で周囲の目を気にしなくていいからなのかな？そういった意味で、この千駄木学園のトイレは非常に寛げる場所だよね。トイレだけでこの職場で働きたいと思わせるんだから。

 

たぶん、筆記はできているから。あとは面接だけ。とにかく正直に言い過ぎない。相手に合わせて。

 

「坊主になる事に抵抗はありません」

これは大事だから、あと10回復唱しておこう。

 

あと、

「己を忘れて他を利するは慈悲の極みなり。この言葉に惹かれて貴校での職をつきたいと思いました。私もそういう人材を育てられるように懸命に頑張ります」

という千駄木学園の校訓もきちんと言わないとね。

まぁ、昨日高校受験案内を見て知った言葉だけどね・・・。

 

さて、楽しく面談してくるかな。