今月の5の日はこの本のコラムを掲載します。
過去に掲載したことありますけど、
何度読んでもいい話です。
- 出版社/メーカー: 三笠書房
- 発売日: 2012/09/20
- メディア: 文庫
フック船長は謝らない
これは、木下晴弘さんから聞いた話です。
ある日、ディズニーランドにお父さんと女の子が来ました。女の子の名前はナンシーちゃんと言います。おそらく、お父さんは、忙しい仕事の合間をぬって、やっとお休みが取れたんでしょう。ナンシーちゃんは、フック船長が大好きで、サインを貰いたくて、貰いたくて、それが楽しみでディズニーランドに来ていました。
フック船長と写真が撮れるコーナーには、長い行列ができていました。ナンシーちゃんとお父さんも並びました。ナンシーちゃんは、自分の番が来るのを、いまかいまかと待っていました。
長い間待って、ついに、ナンシーちゃんの番が回ってきました。ところが、その瞬間、フック船長がいなくなってしまったんです。ナンシーちゃんは大泣きです。
でもディズニーランドはさすがです。そんな姿を見て、キャストが・・・、あっ、ディズニーランドでは、スタッフを「キャスト」と呼ぶんですけどね。キャストがすぐに、「いかがしましたか?」と聞きにきました。
お父さんはカンカンです。
「コラー!どういうことだ!散々待たせておいて、フック船長がいなくなるなんて
ひどいじゃないか!」って
キャストは言いました。
「それは大変申し訳ございませんでした。後ほどお詫びとご説明に伺いますので、ホテルと部屋の番号を教えてください。」
まぁ、そう言われたので、お父さんも部屋番号を教えて、その場はそれでおさまりました。そして、しばらく遊んだ後、ナンシーちゃんはお昼寝のため、ホテルに帰りました。
ホテルに戻って、部屋に入るとなんと、部屋の窓が開いていました。
「あれっ?確か、閉めていったはずなんだけどなぁ・・・」と思いながら、ふとベッドの枕元を見ると、こんな手紙が置いてありました。
「ナンシーへ
今日はフック船長が意地悪したんだってね。ホントにごめんね。
でも気にしないで、また遊びに来てね。
ナンシーの友達、ピーターパンより」
そして、その手紙の横には、ピーターパンの人形が置いてありました。
これを見たナンシーちゃんは
「窓からピーターパンが入ってきてくれて手紙を置いていってくれたんだ!!」
と大喜び。それを見たお父さんは、
「ディズニーランドもなかなかやるわい」
・・・と思ったでしょうね。
話はここで終わりです。さぁ、皆さん、この話を聞いて、「さすがディズニーランドは凄いな」だけじゃダメなんですよ。大事なことは、皆さんがここから何を学ぶかなんですよ。今回、これ、「クレーム対応」ですよね。このキャストは、素晴らしいクレーム対応ができたと思うんですが・・・。
ちょっと考えてみましょう。最初にお父さんが怒りましたよね。お父さんは、何に対して怒ったんでしょうか。
私、この話を初めて聞いたときに、木下さんにそう聞かれて、「フック船長がいなくなったから怒ったんでしょ」って思いました。でも、違うんだって、木下さんが教えてくださいました。
もしもキャストが「お父さんは、フック船長がいなくなったから怒ったんだ」と考えたとすれば、そのことを誠心誠意、謝るしかないじゃないですか。
・・・そうすると、こんなクレーム対応になっていたんでしょうね。ホテルの部屋に、フック船長を連れてきて、「こいつが勝手にいなくなったんですよ。ホントすみません。こらっ、謝れ!」って言って、フック船長に謝らせるんですよね。フック船長も「ホントすみませんでした。これ、お詫びのクッキーです」なんてやるんでしょうね。
でも、憧れのフック船長が、お父さんに対して、土下座をして謝っている姿を見たら、ナンシーちゃんはどう思うでしょう?ナンシーちゃんの憧れのフック船長はそんな、人に頭を下げて謝るようなキャラじゃないですよね。
そんなことしたら、ナンシーちゃんの夢も希望も丸つぶれです。そんな姿を見た、ナンシーちゃんはもっと泣くんじゃないでしょうか?さらにそのナンシーちゃんの姿を見たお父さんはもっともっと怒るんじゃないでしょうか?
そもそも、お父さんは、最初なんで怒ったのでしょうか?本当に「フック船長がいなくなったから怒った」のでしょうか?お父さんは毎日、朝早くから夜遅くまで仕事をしています。そんな忙しい仕事の中、奇跡的にとれた休みのはずです。家でのんびり疲れを取りたいはずなのに、なぜ、わざわざ早起きして、ナンシーちゃんをディズニーランドに連れてきたのでしょうか?
お父さんは、ナンシーちゃんがディズニーランドで喜んで遊んで、「お父さん、楽しかった!」って笑顔で言ってくれたら仕事の疲れなんて吹っ飛ぶんですよ。ナンシーちゃんの笑顔を見たくて、ディズニーランドにきているんですよ。私も子どもがいますから、その気持ちは分かります。
ところが、ナンシーちゃんの笑顔が見たくて来たディズニーランドで、ナンシーちゃんが泣いたんです。だから怒ったんですよ。
キャストは、その本質をちゃんとつかんでいました。本質を見極めたあとの行動なんて簡単です。「ナンシーちゃんが泣いたから怒ったのだから、ナンシーちゃんを笑わせればいい」んです。
・・・というより、ナンシーちゃんを笑わせることができなかったら、今回のクレーム対応は意味がありません。失敗です。しかも、ナンシーちゃんの夢を壊すことなく、笑わ せなくてはいけません。
しかし、今回のクレーム処理はナンシーちゃんの夢を壊すどころか、ナンシーちゃんの夢を、もっともっと膨らませています。この手紙はナンシーちゃんにとって、一生の宝物になったことでしょう。素晴らしいクレーム対応です。
ディズニーランドのキャストはなぜ、こんな対応ができるのでしょうか?これは、相手の立場に本質的に立てるかどうかだと思います。表面的ではありません。本質的に相手の立場に立てるから、こんなにいい仕事ができるんです。こういう仕事ができる人って幸せですよね。
ちょっと話が変わりますが、こういうことって、仕事が始まったらありますよ。いっぱい。お客様とのトラブルや、上司とか先輩のトラブル・・・というか、何か注意されたり、怒られたり・・・ということがあると思います。場合によっては、些細なことで、こっぴどく怒られたりすることもあると思います。でも、みなさんは、そこだけを見ちゃいかんのですよ。
「何で部長は、こんな些細なことで、俺のこと、こんなに怒るのかなぁ?」
とそれこそ、「素直な心」で、
「このことは、自分に何を教えてくれているのかなぁ?」
と考えると、意外と自分に原因があって、実はそれが溜まりに溜まっていて、些細なことがきっかけで爆発して、「なんだお前!」と怒られちゃったりするわけですよね。そういうこと多いですよ。そういう場面で、何がいけなかったのかなぁ・・・と、その出来事だけじゃなくて、今までのことも含めて考えて、相手の立場に立って考えてみると「あぁ~、確かに今まで自分がやってきたことを考えると、もし逆の立場だったら、今回ここまで怒るのも分かるなぁ」って気付くかもしれないですよね。そうすると、変わりますよね。自分の行動が。
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