「ちゃんとする」圧力

世間ってなんだ (講談社+α新書)

世間ってなんだ (講談社+α新書)

  • 作者: 鴻上尚史
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2022/09/21
  • メディア: Kindle版

 

今月はこの本のコラムを掲載して、

そのあとに自分の意見を少しだけ……。

 

 

「日本的快適さ」と「日本的息苦しさ」

ロンドンは、ここ1週間、抜けるような青空で、ようやく、暖かくなってきました。

といって、今年は4月の中旬に雪が降りましたから、はじめの3日ほどは、「また、絶対に寒くなる!」と信じなかったのですが、さすがに、1週間、青空が続くと、「おうおう,やっとお前も改心したらしいな」と信じる気持ちになってきました。

ロンドンの冬は、本当に寒く、暗く、冷たかったので、「冬のロンドンは、人間の住む場所じゃねぇ!」と言っては、ロンドン出身のクラスメイトから、嫌な顔をされていました。

みんなよっぽど、僕が思ったのか、昨日は、18歳、色白、もち肌のリチャードが「ショウ、青空だよ。ロンドンの青空だよ」と嬉しそうに話しかけてきました。まるで、ロンドンをフランチャイズにしているサッカーチームのサポーターが、試合に勝ったような報告をしているようでした。

昨日の夜、テレビを見ていると、「あんまり天気がいいので、みんな、昼休みを長くとるようになって、経済に影響が出始めている」というニュースが流れていました。

 

さて、突然、話を迂回させますが、外国にそれなりに長く住むと、日本という国に対する無意識の態度を、意識下するようになります。

ぶっちゃけて言えば、大好きになったり、大嫌いになったりするわけです。

で、最近、僕はしみじみ思うのですが、判断の1つの要因は、「日本的な快適さ」を取るのか「日本的な息苦しさ」を嫌悪するのかということのような気がしています。

前述したニュースは、こんないい天気が5月に1週間も続くのは、とても珍しいということが主眼でした。

経済に影響が出ているという方ではありません。経済に影響が出るぐらい“いい天気”だということです。

しかし、このニュースを具体的に想像すると、昼休み、公務員も会社員も店員も、みんなサンドイッチ持って公園へ行って、1時間の休みではもったいないので、太陽をいっぱいに浴びて30分か1時間遅れて仕事場に戻るということです。

日本でこんなことが許されるのか?

2時になっても(イギリスの昼休みは、1時から2時までです)、お店は開かず、役所は機能せず、会社に人がいないなんてことを日本人は許すか?

「日本的な快適さ」は2時に必ず、お店が開くことを保証します。いえ、さらに進んで、誰かが、太陽を浴びることなく働き続け、昼休みも同じ水準で仕事が続くように保証します。

先進諸国という分類に堂々と入るイギリスでさえ、青空が続くと、国民的規模で、昼休みを長くとるのです。

今日、学校で天気の話になり、このニュースのことを言うと、イタリアから来たヌーラと言う女性が、「あら、イタリアでは普通のことよ」とさらりと言いました。

天気がいいと、昼休みは長くなる。それは当然のことじゃないのと付け加えました。

この話は、長くなるので、今回はここでやめておきますが、ひとつだけはっきり思っていることがあります。

 

それは、「日本的息苦しさ」を嫌悪しながら、「日本的快適さ」を求めるのは、虫が良すぎるということです。逆に言えば、残念ですが、それほど、人間は賢くも強くもないだろうということです。

ロンドンの地下鉄は本当によく遅れます。急に止まって、電気も消えて、真っ暗のまま、10分以上止まっているなんてのも珍しくありません。

そもそも信じられないでしょうが、毎日、同じ時間に来ません。

だから、ロンドン人は誰もロンドンの公共交通(地下鉄とバス)を信じていません。クラスメイトも先生も、よく遅刻します。

この前、日本では、地下鉄はいつも同じ場所に止まるから、どこにドアが来るのか事前に分かる、とイギリス人に話したら、信じてもらえませんでした。

で、僕は思うのです。いつも決まった時間に電車が来て、同じ場所に止まるというイギリス人には信じられない「日本的快適さ」を好む以上は、いつも時間に追われ、いつも時間を気にする「日本的息苦しさ」から逃れることはできないだろと。

どんなに天気が良くても、時間が来たら必ず仕事を始める「日本的快適さ」を好む以上は、いつもまわりの目を意識し、世間が見つめる「日本的息苦しさ」から逃れることはできないだろうと。

ただし、だからイギリスは素晴らしいなどと愚かなことを言っているわけではありません。問題を単純化することと、解答を単純化することはまったく別です。

 

最近、日本ではイギリスがブームで、「イギリスが大人の国で日本は子供の国」などという能天気な本が売れているそうです。

僕はすぐに反論できます。イギリスが紳士とマナーの国なんてのは、地下鉄に乗れば、いっぺんで嘘だと分かります。

ほとんどの人は、どんなに混んでいても電車の奥に詰めないし、降りる人に場所を空けることもしません。

電車の中で、一番、マナーがいいのは、悲しいことにラッシュアワーの訓練を積んだ日本人なのです。

 

 

 

 

 

数年前、修学旅行でシンガポールのUSSに行ったとき、両替をしたくて1時間待たされたことがありました。日本なら2人いて1人が休憩なのになぁと思ったことがあります。まぁ、これが文化なのでしょう。何事にも良い面と悪い面が裏表で存在するので、片方ばかりに目を向けてはいけないなと思います。個人的には日本はとても良いところなので、悪いところは目をつむりながら、誰かが改善してくれることを祈っています。

 

 

 

コメントは停止中ですが、トラックバックとピンバックは受け付けています。