一隅を照らす

まさか、サッカーの本で『一隅を照らす』に出会うとは

思わなかった。

[メンタルモンスター]になる。 (幻冬舎単行本)

[メンタルモンスター]になる。 (幻冬舎単行本)

  • 作者: 長友佑都
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2022/11/16
  • メディア: Kindle版

W杯が終わって、長友選手が引退するかもしれない、という噂が出ていますけど、右の本を読むと、今回のW杯にかけた意気込みが伝わってきます。正直に言うと、この本を読んでも「メンタルモンスター」にはなれないです。この本は「ロストフの14秒」からの4年間の軌跡を中心に、そのときの心情を書いている本です。それでも「はじめに」に書いてあるコラムを読んでほしいなって思います。これが、駒込高校の教育理念である「一隅を照らす」なんですよね。

 

<はじめに>

 

ポジティブすぎて「引かれる」ことがある。

 

つらくても、きつくても、苦境にあっても「ポジティブな姿勢を貫く」。

 

カタールワールドカップまでの道のり、僕の隣にはいつも「批判」がいた。もう、友達と言えるくらいの存在だ。僕を成長させてくれる「ガソリン」と言った方が近いか。ポジティブでいると、思わぬ力を、特にここぞという場面で発揮することができる。ポジティブパワーがその人にもたらしてくれるものは、みんなが想像しているよりはるかに大きい。

 

そうやってサッカー人生を乗り越えてきたから、僕のメンタルはとてつもなく強くなったと思っている。残念なことにハセさん(長谷部誠)ほど「整って」はいないし、(本田)圭佑のように「リトル」を作れるほど器用ではない。でも本当に力が発揮できているときは、まるで自分が「超人ハルク」になったような感覚を持つことができる。相手がビッグクラブだろうが、強豪国だろうが負ける気がしない。見下ろしてプレーできる――そのくらいのゾーンに入れる。

 

「超人ハルク」は怒りでモンスターに変身する天才科学者だけど、僕の場合はメンタルでモンスターに変身できるサッカー選手。

 

いわば、メンタルモンスターだ。

 

自分で言うなよ、って言われるかもしれないけど。

 

でも実は誰だって「メンタルモンスター」になれると思っている。才能も自信もなかった僕が、ここまで現役を続けられたのだから。

 

この本は、そんな僕の「メンタル」の在り方、いわば「メンタルモンスター」の作り方を書いている。

 

 

ポジティブすぎて「引かれる」-冒頭にそう書いたけど、僕はポジティブである人に「惹かれる」世の中であってほしいと思う。

 

そういう側面はすでにある。でも、もっと、だ。もっと、世の中が、日本が、大きなことを言うけど――「世界」がポジティブな空気に包まれてほしい。

 

昨年(2021年)、日本に11年ぶりに戻ってきて「あれ、日本ちょっと暗くないか?」と感じた。悲しいニュースが多い。それでなくても、世界では新型コロナウイルスの感染拡大やウクライナ戦争といったつらい出来事が多いのに、家族の中で起きた痛ましい事件、自ら命を絶ってしまった人の話、SNSであふれる誹謗中傷……そんなものばかりが話題に上がっているように思えたのだ。

 

暗いな……「光」が必要だな――

 

僕はサッカー選手であり、父親でもある。子どもたちを見て、純粋でまっすぐな彼・彼女らにもっともっと「光ってほしい」と思う。自分の子どもだけじゃなく、スタジアムに足を 運んでくれたり、サッカー教室で触れ合う子どもたちも同じだ。努力して、自分を磨き上げて輝く、まぶしい存在になってほしい。そのためにも未来を明るく光らせなければいけないし、大人にはその力がある、と思っている。

 

光は、まっすぐに進み、何より速い。

 

真っ暗闇にあって、光があると落ち着くし、目指す先が見える。足元が見える。

 

光が強ければ強いほど、たくさんの人を照らすことができる。

 

何より僕たちは光がなければ生きていけないし、虫だって動物だって光を求めて集まってくる欠かせないものだ。

 

僕はそんな「光」になりたい、と思い続けてきた。自分が「光る」ことで、普段から自分を支えてくれる人を照らすことができる。家族やサポーター、応援してくれる人たちにスポットライトを当てられる。僕が強く光ることができればできるほど、それだけ多くの人も照らすことができるんじゃないか。だから、自分自身を磨き続け、成長を続けたいと走ってきた。できる限りの努力をしてきた。

 

例えば批判を受けたとき、僕だってすぐにポジティブにあんれるわけじゃない。あえて前向きな言葉を発し、自分の頭、―― 脳に「これはできる」「成長のために必要なことなんだ」と勘違いをさせる。そうやって自分をコントロールしてポジティブな自分を作り上げていく。

 

「メンタルモンスター」は、そういう技術や準備をして作り上げられる。それは「光」があってこそできるものだ。繰り返すけど、自分を磨き続け、わずかでもいいから目指すべき道を照らすことができていること。大きな光があって「あの光を目指そう」と思えること(それが僕の場合、ワールドカップであり、世界一のサイドバックになるという夢だった)。

 

どんな光でもいい。

 

誰の光でもいい。

 

光が足りない。

 

そう思ったとき、「メンタルモンスター」としての僕の考え方は、みんなが「光る」ことの助けになるのではないか、と思った。

 

 

子どもたちに「光れ!」と伝えるのは心からの本音だ。

 

どんな人も、誰であっても「光る」ものを持っている、あとは、それを磨き、光らせるまで頑張れるか。ひたむきになれるか。より大きな光になる努力を続けられるか。そこに暗い未来を明るいものに変えていける鍵があると思っている。

 

僕はできるだけ大きな光を目指したいと思っている。そのときにどう考え、何をしてきたかを本書で、できるだけ詳しく書いた。日本サッカーと僕の歩み、実際に起きたことを紹介しながら、なるべくわかりやすく読めるように努めた。

 

 

でも、僕だけでは世界は照らせない。

 

ひとりでも多くの人が「光」になれるように。

 

そうすることで「照らせる範囲」が広くなる。

 

日本から世界を、どんどん明るくしたい。

 

そう願っている。

 

カタールワールドカップで活躍し、僕はもっと大きな光を手にする。

 

だから、みんなにも自分なりの方法で「光れ!」と言いたい。

 

そんなとき、僕の「メンタルモンスター」の秘密が役立てばうれしい。

 

 

 

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