グループからチームへ

(学年通信のコラムをそのまま掲載しています)

 

この学年通信のタイトルは『切磋琢磨』である。お互いに磨き合って高め合うことであって、決して皆で仲良くしようという意味では用いていない。何故、切磋琢磨することが大事なのか。それは成績を向上させるだけでなく、社会で生きていくための術でもある。そして、学校生活においては主にクラブ活動がその役目を担っていると考える。

 

坂東真理子著の『親の品格』で、社会でどのように行動していくか、他人とどう関わっていくかの知恵についてこのように書いてある。

学校では秀才だったのに、実社会に出てあまり成功しなかった人はたくさんいます。本を読み、知識を身につけ、入学試験や資格試験には強くても、仕事ができないという人は、どうやら人と協力して物事を成し遂げるのが苦手なようです。

(中略)

 

 では、どうしたらチームで働く基礎的な知恵を身につけることができるのでしょう。じつは、その答えは女性が職場進出できるようになるための方法と同じなのです。

 

アメリカでは女性の職場進出が日本より約二十年早く始まりましたが日本同様、経営管理職に就く女性の少ない時期が続きました。その原因をいろいろな学者が研究しました。ベティ・ハラガンは、『母が教えてくれなかったゲーム』(WAVE出版)という本のなかで、男性は若いときから野球やサッカーなどチームで勝負を争うスポーツに親しんで、チームプレイヤーとしての行動を身につけているが、女性はままごとやお人形遊びのように、好きな友だちと仲良く過ごす遊びをしていると指摘しています。

 

男性は幼いときからチームで行うスポーツを通じて、人柄は嫌いでも上手にプレーできる仲間と組まなければ勝負には勝てない、チームが勝つためには自分の役割を果たすことが重要である。個人プレーをしてはいけない、試合で負けてもすべてを失うわけではなく負けから学ぶこともたくさんある、勝つのも時の運だから有頂天にならないなど、仕事の仕方を学んでいるというわけです。それが、社会で仕事をする際に役に立っているのです。

 

近頃は男性もTVゲームなど個人で楽しむことも増えてきている。ニートなどの引きこもり始まったのは50代の世代からだとテレビで報道されていたが、ファミコンが発売されたのは私が小学生の頃である。ちょうど時代が適合しているのは決して私の思い違いではないだろう。このように学校や地域のクラブ活動こそが協調性を育める数少ない組織である。もちろんクラスの活動もその一役を担っている。

 

この本を読んでから私は柔道部の部員を仮入部などの短期間しか在籍していない部員を除いて簡単に辞めさせないようにしている。今までは先生に覚悟を決めて辞めると言いに来ているのを止めるのは申し訳ないと思っていた。しかし、柔道部を辞めたからといって駒込生であることに変わりはない。ならば、駒込の生徒として将来社会に出たときに困らないようにするのも教師の仕事ではないかと思うようになった。

 

クラブは失敗が許されるチームである。入部から始まり、基礎の練習、縦の人間関係、実践練習、本番、反省と短期間で一つのテーマをこなせる場である。もちろん練習は大変だろうし、人間関係で傷つくこともあるが、それ以上に達成感や仲間の大切さを確認できる場でもある。なによりもやり直しが利く、何度もチャレンジできる機会があるのがクラブの利点であろう。社会ではなかなかそうはいかない。

 

そのような場であるからこそ、個人の性格も垣間見ることができる。クラブ中に好きなことしかしない子どもは、勉強でも好きなことしかしない。練習でも先生の話を真面目に聞ける子供は家庭でも親の言うことをきちんと聞いて行動する。試合中にマイナスイメー ジを持ち続けて切り替えられない生徒は日常でもマイナスイメージをもって行動する。結局はどのような行動をしても心は常に変わらないのだ。ここ最近柔道部員を観察していて気づいた。柔道で好成績を残した学年は、学業でも好成績を残している。

 

現在は家庭においても少子化、子ども部屋、携帯電話の普及などによって一人で生活する環境が増えてきた。しかし、社会は決して一人で生きていける場所ではない。今一度クラ ブ活動の意義を見直し、多くの生徒がクラブ活動に参加し、お互いに励ましあい、健全な精神を養ってほしい。クラブは色々な人が集まったグループ(集団)である。そのなかでコミュニケーションを図り人間関係を学びその中で個人が自分の役割を果たせばチーム(組織)へと変わっていく。この過程こそがクラブ活動における一番の醍醐味であり、社会に出てからも役立つものではないだろうか。

 

今年度の学年通信のタイトルは『切磋琢磨』であるが、クラブ活動だけでなくクラスでもそのようなチームになっていれば嬉しい。

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