前月と今月はこちらの本のコラムでも。
生き苦しさから解放されるのは難しいでしょうが、
原因を知ることで少しでも緩和できれば。
「空気」を読んでも従わない 生き苦しさからラクになる (岩波ジュニア新書)
- 作者: 鴻上 尚史
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2020/03/12
- メディア: Kindle版
スマホの時代に
スマホは私たちの生活を変えました。
あなたは、スマホを持つ前と持ったあとで、何が違いましたか?
友だちのSNSの写真を見て、どう思いますか?
「あぁ、素敵だな」と思いますか? それより「なんて楽しそうなんだ。それにひきかえ、自分の生活はみじめだ」「みんなはどうしてこんなに幸せそうなんだ。なのに自分は……」「友だちの派手なSNSの写真は見たくない」と思ったりしませんか?
インターネットで繋がることが、かつては希望でした。でも、今繋がることが、重荷とか苦痛になっていると僕は思います。多くの人とスマホで繋がることで、ますます孤独を感じるようになっているのです。
考えてみれば、変な話です。多くの人と繋がればつながるほど、楽しくなったり、安心したりするのではなく、孤独や不安になるのです。
スマホは不幸なことに、「世間」を「見える化」しました。自分がどんな「世間」にいるか、どれぐらい「世間」からハジキ飛ばされているか、「世間」は今どうなっているのか、を目に見える形で示すのです。
同時に、スマホはあなたの自意識をどんどん増大させます。自意識というのは、「周りに自分のことがどう思われているんだろうと思う意識」のことです。
スマホはアナタの評価を数字で表します。何人のフォロワーがいて、いくつの「いいね」がついて、どれくらい見られているのか。それが、リアルタイムで表示されるのです。
これで、自意識とうまくつきあえるというのは、ものすごく難しいことです。僕の十代は、もちろん、スマホなんかありませんでした。テレビや新聞・雑誌しかなかったので、注目されるにはかなりのことをしないとダメでした。十代で自転車で日本一周したとか、世界30か国を訪れたとか、小説を出版したとか、簡単には実現できないことでしか、評価されませんでした。ですから、マスコミに取り上げられること、有名になることを諦めることができました。
けれど、スマホの時代には、簡単なことで発信出来て、何人かのフォロワーがついて、反応が返ってきます。どれぐらい自分は注目されているのか、昨日より今日の注目は増えたのか減ったのかをスマホはいちはやく教えてくれるのです。
これは麻薬です。うまく付き合わないと、自分の評価だけがきになります。自意識がどんどん大きくなって、「人からどう思われているか」だけど気にするようになってしまうのです。でも「人からどう思われているか」というのは「空気」ということです。毎日、コロコロと変わる、不安定な評価です。
「空気」を生きる目標にしてしまうと、安定しない、不安な毎日を送ることになってしまうのです。
たくさんのフォロワーやビュー、「いいね」が欲しくて発言します。多くの人に認められれば、「自分は何者かになった」と思えるからです。昔のマスコミと違って、簡単に有名になれるインターネットでは、だからこそ、有名ではない自分、何者にもなってない自分は許せません。
みんな「自分はこんなレベルじゃない」と思っているのです。だからみんな「何者かになりたくて」発信を続けます。でも、ネットでは、上には上がいます。何かを発言しても、すぐに否定されてしまいます。マニアぶって、マンガや映画、小説のことを書いても、すぐに誰かに否定されます。「何者にもなれない」自分を突き付けられるのです。
でも、こういうとき、絶対に否定されない言葉があるのを知っていますか?
それは「正義の言葉」です。
「20歳未満なのにお酒を飲んでいる人を見つけた」「高校生なのにタバコを吸っている写真をアップしていた」「信号無視をしていた人がいた」「自転車で道路いっぱいに横一列に並んで走って迷惑」
こういう文章をSNSに書いても、否定されません。ネットで見つけて、堂々と告発すると、まるで自分が「何者かになった」ような気分になれます。だから、最近、「正義の言葉」を発信する人が増えてきました。
でもこんな形で「何者かになろう」としても、幸せにはなれないだろうと僕は思っています。ずっとインターネットをさまよい、観察し、告発し続けないといけないのです。とても疲れる人生だろうと思うのです。
誰かを憎み、告発することを基本にするのではなく、自分を認めること、つまり、「自尊意識」を高めることを目標にした方がいいと思っています。SNSに写真や文章をアップするのは、「正義の言葉」でも「人の評価」でもなく、あなたがそれを「好きかどうか」「やりたいかどうかで判断するのです。
「人の評価」だけが動機になると、本当に辛い人生になると思います。
僕は作家ですが、「読者が気に入るかどうか」だけでは作品は書けません。もちろん、読者が気に入ってくれればうれしいですが、その前に「自分は書きたいのか」「自分は面白いと思っているのか」という大切なハードルがあります。
このハードルをちゃんとクリアしないで、「読者が気に入るかどうか」だけを考え始めると、人生は不安定になり、不幸になると思っているのです。
だって、自分の人生を決めるのは、自分で会って、「他の人が評価するかどうか」ではないからです。
まぁ、評価は他人がするものですから、仕方ないと思いますけど、それでもそれにとらわれすぎては迷子になります。私もでいろいろやっています。まぁ、確かに評価は欲しいですけど、10人くらいからもらえたら大満足なので、あんまり有名になりたいと思わないし、どちらかというとひっそりやりたいと思います。
世間に流されることなく、自分の世間で楽しむことが大切だと思います。
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