今日はこちら本のコラムから
- 作者: 橋下徹
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2024/07/18
- メディア: Kindle版
僕がカネを受け取らなかった理由
ー「政治家にカネが集まるのは当たり前」というのは、橋下さんご自身、政治家になった時に実感されましたか。
それはもう、ビックリするほどね(笑)。とにかくあの手この手で、カネを掴ませようとしてくる個人や企業・団体がいくらでもいることに、驚きました。話には聞いていたけど、ころほどか、と。
たとえば僕が大阪府知事に立候補した際、いくつもの業界団体から献金の申し出がありました。そうした献金はすべて断ったけど、それでも「御挨拶だけでも」と訪ねてくるからスタッフが会うわけです。するとその業界団体が僕を知事に推薦するという分厚い「推薦状」の額装を手渡して帰っていく。相手が帰ったあと、スタッフが額縁の裏を確かめてみると、札束がゴソッと出て来るんで仰天しました。
ーえ、そんな露骨なことが、この21世紀にもまだあるんですか?
あります、全然あります。もちろん僕はきっちり全額返しましたけどね。秘書に頼んで、耳を揃えて返すようにしていた。だって、そんなカネ、恐ろしくて受け取れませんよ。
理屈は分かりますよ。そういう「業界団体の推薦状」を円満に受け取っておけば大阪の各種団体が応援団になってくれたも同然です。彼らが講演会をつくって、「橋下を応援するぞ!」となったら鬼に金棒です。
でも、当然そうしたカネには、大きなリスクもあります。カネを受け取った代わりに、俺らの業界団体に便宜を図れよと。そうすれば、次の選挙も応援するぞ、というね。
ー橋下さんは、そうしたカネはいっさい受け取らなかった。
もちろん。だって嬉しさより、怖さの方が先に立ちますよね。というのは半分冗談にしても、カネを受け取らなかった理由は大きく2つあります。
1つ目は、僕は当時、「政治や行政や利害関係のなれ合いがひどい状態になっていた大阪府行政を建て直す」と宣言して立候補しているわけです。業界団体かカネを受け取ったら、そこにメスを入れられません。受け取った途端に、彼らに飲み込まれます。逆に言えば、僕はそうした申し出をすべて突っぱねたから、遠慮なく大ナタを振るうことができた。
当然、それまで政治家に「献金」することが慣例だった業界団体にしてみれば、衝撃だったはずです。行政から数億~数十億単位の補助金を得たり、公共事業の仕事を受けたりしてきた彼らにしてみれば、政治家に数百万~数千万円単位の「援助」をすることなど、屁でもありません。そんな慣習をぶった切ったもんだから、まあ、恨まれましたよね。
もう1つの理由は、これまたシンプルなもので、政治家を辞めた後が怖いからです。
僕は弁護士として、自分自身も毎年、確定申告をしています。そうした身からすると、お金を巡るウソ、ごまかしは民間の仕事をすべて棒に振ります。僕に限らず、自営の方や企業経営者は同じ感覚ではないでしょうか。
仮に政治家時代に「賄賂」を受け取ったり「脱税」したりしていたなんて汚名がついたら、民間に下った瞬間に仕事がまったくできなくなります。
僕は08年に政治家人生をスタートさせましたが、当初から、数年間政治家をやったら再び民間に戻るつもりでいました。結果的に僕の政治家人生は8年で終わりましたが、もし大阪都構想を巡る選挙が賛成多数で実現していれば、その後はもう一度、堺市長選挙に出馬するつもりでいたんです。
そうなれば12年間、政治家を務めることになったでしょう。でも当初からそれで終わりにするつもりでした。12年間政治の世界にいれば、もう十分だろうと。
いざ民間に戻ろうとしたとき、政治家時代に妙なおカネの受け取り方や使い方をしていれば、その後の人生を棒に振ることになります。「橋下は政治家時代に違法な手段で散々カネをため込んだ。不正に手を染めていた」なんて評判が立てば、その後の弁護士人生やコメンテーター人生は終わりです。
そんなことは怖すぎて到底できない。僕は政治家時代、特におカネにまつわる部分に関しては、徹底的に、それこそ神経質すぎるほど几帳面に管理してきたつもりです。だから、僕を嫌いな人間やメディアがどれだけ調査しても、政治家としてのカネに関する不正を見つけることができなかった。
「橋下の政策には反対だし、人間的には嫌いだ。だけどカネに関してだけはきれいだ」というお墨付きがあるから、今も僕はコメンテーターとして堂々と政治批判をすることができるんです。
ーたしかに、芸能人でも悪質な脱税をした場合は、二度と復帰できない。
そうでしょう。企業も同様ですよ。会社のトップが脱税、あるいは組織ぐるみで粉飾していたとなれば、大変なことになります。担当者の責任はもちろんですが、上司の責任、そして組織トップの責任も大きく問われます。
ではそうした場合の責任はどうやって取るか。多くの場合は、「辞任」です。「責任を取る」とはそういうことです。
ところが、今回の自民党はどうか。数億円という巨額のカネをめぐる不祥事なのに、リーダーたちは誰一人罪に問われず、責任も取らない。法的制裁を受けたのは会計責任者たちだけです。
国民が今、猛烈に怒っているのは、長年にわたり裏金をため込んできたこと以上に、その事実が判明した後の、自民党政治家たちの振る舞いです。確定申告のしんどさも経験したことのない政治家たちの、俺たちは一般国民とは違うんだと言わんばかりの傲慢な態度に、国民は怒っているのです。
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長年の歴史を見れば、賄賂や献金なんてものは当たり前のようにあったし、それが必ずしも悪だとは限らないと思うんですよ。ただ、時代が変わりつつある今においてもそれを断ち切れないのが問題なんですよね。そして責任の取り方もね。
1回、そういうのを断ち切れる人がトップに立ったほうがいいと思います。たぶん石丸さんが支持されたところってそういうところだと思います。
そういう意味で石破さんでいいのか、という疑問符はありますが。
橋下さんが今もコメンテーターとして働けているのもそういうことをやってきたからなんだなと思うと、発言にはいろいろ思うところもあるけど、許せてしまうところがありますね。