自分が授業をする際に気を付けているのは、
教科書に書いてあることをそのまま伝えない
ことである。生徒だった時代、教科書に書いてあることを繰り返すように喋っている先生がいると、「いや、自分で読めば分かるよ」と思っていた。今考えると憎たらしい生徒だな。いや、直接声に出していないよ。もちろん心の中で唱えているだけ。苦笑。
正直、そんな先生方を反面教師にしているところがある。だから、教員になってからオリジナルの問題集を作成していた。最近は教科書の良さを理解できるようになったので、オリジナル問題集を作らなくなったが、それでも、行間にあるその本質を生徒に伝えられるように努めている。
これは以前ブログに掲載したが、大事なことなので、もう1回掲載する。

学校に染まるな! ――バカとルールの無限増殖 (ちくまプリマー新書)
- 作者: おおたとしまさ
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2024/01/11
- メディア: Kindle版
教科書はフリーズドライ、先生はお湯
長い年月をかけて人類が構築してきた知識体系を現代の子どもたちにも食べやすいように小分けにしたものが教科という概念でしたね。そして、それぞれに教科に含まれる要素の中から現代の子どもたちに学ばせるべきものを取捨選択して究極にまで濃縮したものが教科書です。
たとえば、遺伝の原理を学ぶときに欠かせないメンデルの法則なんて、生物の教科書ではちょっとの紙幅で説明されていますが、もともと農家の出身だったメンデルが修道院の畑でエンドウマメを育ててあの法則を発見するまでには8年の月日が必要でした。人類史上まれに見る天才がそれだけの年月をかけてようやく知ったことを、現代の私たちは、教科書をめくるだけでたった数分で知ることができてしまいます。
日本史を例に出せばもっと分かりやすいですね。大河ドラマなんかで一年かけれ毎週描かれる人間模様が、教科書の中では場合によっては数行で描かれておしまいです。坂本龍馬だって一言しか登場しません。教科書では、歴史を織りなした人々の血と汗と涙がきれいに脱水・漂白されています。
まるでフリーズドライされた食品です。教科書をそのまま読んでも面白く感じられないのは当然なんです。だって、フリーズドライの食品をそのまボリボリかじってもおいしくないでしょ。
そこにお湯をかけて、みずみずしさを取り戻すのが先生の役割です。
たとえばコペルニクスがどのようにして地動説に気づいたのか。地動説に気づいてしまったとき、どれだけの怖れを感じたか。その後その説が世の中に認められるまでにどれほどの年月が必要だったか。その間、この説を支持した科学者たちがどれだけの辛酸をなめたことは。そこから見える科学と宗教の関係性の歴史にまで思いを馳せる。
こうすることで、教科書が本来の味わいを取り戻すのです。
こんな例えをしたら怒られるかもしれませんが、要するに先生とは、カップラーメンにかけるお湯です。いや、お湯をかけてくれるひと、というべきかな?
人類が経験したワクワクやドキドキを食べやすく小分けにして、しかも一番美味しくて大事なところだけを選別してギューッとフリーズドライしておいたものに、先生が目の前でお湯をかけ、みずみずしいい状態で子どもたちに提供する。子どもたちは、それが何百年も前に作られたものであることを意識せず、その味わいをありありと追体験する。それが本来の学校です。
万有引力を発見したアイザック・ニュートンは、自らの優れた洞察に置いて「私は巨人の肩に乗っただけだ」と表現したと言われています。巨人とは、人類のそれまでの叡智です。先人の血と汗と涙の積み重ねの上に、初めて前人未到のフロンティアの向こう側を見渡すことができたという意味です。
学校でもらう教科書に綴られている人類の叡智の総量を巨人に例えるなら、二十一世紀の巨人は、おそらくニュートンが乗った十七世紀の巨人に比べて何倍も大きな巨人になっているはずです。
先生たちの力を借りながら学校で学ぶことは、そんな巨人の肩に乗ることなんです。
最近の三者面談で生徒に伝えた言葉なのだが、
「たとえば1学期中間の化学の単元でボルタ電池とかマンガン電池とか習って『暗記することが多くて面倒だな~』と思ったかもしれないけど、化学の教科書は今までの偉人が未来を良くするために奮闘してきた歴史なんだよ。昔は日が暮れてから書物を読むときはロウソクなどで火を灯していたんだけど、火事になったりする恐れがあったし、風で消えてしまうこともあった。そこでエジソンが電気を発明したけど、当時はその場で動力を用いないといけなかったんだ。そこで、電気を貯めることができないかと偉大な科学者が奮闘してあんな形の電池を発明したんだ。電池を作るためには物質にある電子を移動させないといけない。そのために幾千もの実験をして、のちにイオンになりやすい物質を発見したんだ。『貸そうかな。まあ当てにするなひどすぎる借金』と語呂合わせで覚えたイオン化傾向の元素だな。それらの元素を組み合わせたもので、成功したものが教科書に載っているものなんだよ。今はさらに化学が発達してリチウム電池とか超小さい電池があるけど、その歴史をたどっているんだ。だから、確かに暗記しなければいけないんだけど、授業の実験のときに『昔の人はこんなに苦労して電池を作ってくれたんだ~』とか思いながら学んでいくことが大事なんだよ」
とね。教科書はそういった歴史を凝縮したものが多いので、そのまま伝えるだけでなく、行間を読んで話をしないといけないんだと思う。
長田はそんなことを意識しながら数学の授業をしている。だから、数学の授業なのに、日本語をたくさん書くし、たまに英単語の授業が始まったりする。
ということで、これから数日間にわたって、長田が授業中にしている工夫をいくつか書いていきたい。

