教行一致

ゆとり教育とは、暗記中心の詰め込み教育に対する弊害に対処するために、週休2日制や総合学習、生活科の設置などを盛り込んだ教育方針である。暗記中心では人間性が豊かにならない。詰めこみ教育が受験戦争を引き起こし、いじめやおちこぼれ、不登校の原因になっている指摘されたが、どうも無関係だったように思われる。

そもそも、近年のゆとり教育に関する論争は、教育界の知識重視型と経験重視型の争いである。知識重視型は百マス計算の陰山英男が有名であり、経験重視型は杉並区和田中で「よのなか科」を作った藤原和博が有名である。どちらの理論も説得力があり、大事なことではあるが、高校教育においては知識と経験どちらを重視するべきなのだろうか。

私は生徒に学習方法にはインプットとアウトプットの2種類があると伝えている。また、面談においては言い方を変えて暗記型か思考型かという話をしている。これが知識重視型と経験重視型になるわけだが、私は両方のバランスを出来る限り揃えることを勧めたい。国公立の大学受験で例えると知識量と判断処理能力を問うのがセンター試験、思考力と経験力を問うのが2次試験で両方の能力を兼ね備えるのが国公立大学に合格する秘訣であると感じている。

 

そんな考えを常に持っているときに、天台宗大阿闍梨である酒井雄哉著の『一日一生』(朝日新書)で教行一致という言葉を知った。

一日一生 (朝日新書)

一日一生 (朝日新書)

  • 作者: 天台宗大阿闍梨 酒井 雄哉
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2008/10/10
  • メディア: 新書

教えと行いは一体でなければならない。車でいえば両輪となっているので同じ轍で走らないと車が傾いてしまうのである。よって私はどちらかを重視するのではなく、知識と経験のバランスを考えながら教育を行うべきだと考える。

また、時系列で考えると知識を最初に行い、徐々に経験を導入して、最終的には経験重視でなければならないだろう。そもそも、子どもは明らかに知識が不足している。よって子どもの何故に答えるために、理由・理論をつけることは確かに望ましいものの、子どもが全ての知識を携えていることは難しい。

例えば、地球温暖化の原因が解明されていないように、全ての事象に理論をつけることは不可能である。なによりも知識が頭に入っていない状態で経験を植えつけてもそれは結局マニュアル化に等しく、知識として頭にインプットされてしまう。まずは知識を詰め込んだ上で、その知識を繋げることによって経験へと変えていくことが必要十分条件だと思う。

 

さらに、学習からの出口が社会への入口であるように社会では学校で教わった知識を実践していく場である。いつまでも暗記に頼っているようではマニュアル人間になってしまい、臨機応変に対応することができない。大人へと近づくにつれて経験型に移行していく必要があり、高校教育はアウトプット型の教育を心がけていく必要がある。

先日読んだ蓑豊著の『超・美術館革命』(角川ONEテーマ21)中にこのような文章があった。

超・美術館革命―金沢21世紀美術館の挑戦 (角川oneテーマ21)

超・美術館革命―金沢21世紀美術館の挑戦 (角川oneテーマ21)

  • 作者: 蓑 豊
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2007/05
  • メディア: 新書

「教育という言葉は英語ではエデュケーション、つまり引き出すという意味である。だから、本来の教育は引き出すことを主眼とすべきなのに、どうも日本の教育は教えることに終始しすぎるきらいがある。学校の授業も、先生が答えを教えて、生徒はそれを暗記するという傾向にある。今の生徒は答えだけを欲しがり、答えを導くプロセスには全然興味がない。しかし、本来の教育では、答えを導き出すまでのプロセスが大事なのだ。自分自身がいろいろ考える。そのプロセスが大切なのだ。

 

先生は答えを出すためのヒントを与えるだけで、答えを出すのは生徒自身に任せなければならない。ヒントを与え、答えを引き出す手助けをするのが教育である。だから美術館でも、『これは国宝だからすごい。重要文化財だからすごいものです』と国のお墨付きや他人の評価を押しつけることは良くない。『この作品は、こういうところが評価されて、国宝になっています』というふうに、幾つかの事実をヒントとして、提示はするが、しかし、その作品を素晴らしいと思うか、好きかどうかはそれを見た人が自分で判断すればいい。」

これこそが教育であると思う。教師はヒントとして知識を与え、生徒はその知識を繋げて知恵に変える。私も教行一致を意識した授業を心がけたい。

 

 

長田

これは8年前のコラムなんですけど、ちょっと中身の事例が古いですね・・・

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