推敲。1~10

今までのを推敲してみました。

言う必要ないと思っていましたけど、念のため・・・

フィクションです。

登場人物のモデルが存在するのは自分と武藤さん(武原さんは恩人です)と筑土先生(大石先生も恩人です。)だけです。他の人は架空です。勝手に「~先生だね」と想像されても「違います」としか言えません。(本当に)

 

来月からは新学期編です。

暇な人、お付き合いください。

 

 

 

 

 

 

3月17日、所沢航空大学就職指導部の武藤さんから

 

「千駄木学園が数学の専任を募集しているわよ!この時期なら受験する学生も少ないはずだから受けてみれば!」

 

と電話があった。

 

大学3年の冬から、ちょくちょくと教員採用募集のファイルをチェックしていたときからだから、もう1年の付き合いになる。自宅に電話をくれたのは初めてのことだったので、とっても驚いた。なんでメールで済むことなのに、わざわざ自宅までと不思議に思っていたら、武藤さんのほうから切り出してきた。

 

「なんで自宅に電話したかというと、実は申し込みの締め切りが明日までなのよ。だから、メールにも送ったけど、見てなかったら不安だから、自宅まで電話したの。」

 

えっ、と思ってすかさすスマホを開いたら、充電が切れている・・・。よくやっちゃうんだよね~。

 

「武藤さん、連戦連敗の僕でも受かりますかね?実はもう結構自信なくて、来年度は地方公務員の試験に切り替えようかなって思っていて・・・」

 

いつものことだが、こうやってボソボソと独り言のように喋ると武藤さんから機関銃のようにまくし立ててくる。

 

「仕事で一番大事なのは情熱よ。寛治くんの教師になりたいという情熱はその程度のものなの?少なくとも私は1年間寛治くんが必死に試験勉強を積み重ねてきたのを知っているわよ。今のこのご時勢、1年目から専任教員になれないものなのよ。大丈夫。私を信じて、受験してみなさい。今度こそ採用されるわよ。」

 

たしかに、試験勉強は一所懸命にしてきた。お陰で筆記試験はすべてパスをした。ただ、残念ながら、7月下旬に公立の採用試験では2次試験の運動能力測定に縄跳びがあって、二重跳びが出来なくて不合格だった。私立の高校も筆記はパスするものの、面接で正直に答えすぎてしまい、不合格を積み重ねた。

 

最初に受験した6月のZ学校の面接試験では、「高校時代の思い出を語ってください。」と言われて正直に

 

「スクールバスが出ない長期休暇中は学校まで2時間かかって大変でした。その点、貴校は最寄り駅から歩いて3分でとても楽ですね。」

 

と答えたら、試験官から「私達が聞きたいのはそういうことじゃないんだよ。」と軽く指導まで頂いた。どうやら、この質問で教員としての適性をみたいようだが、僕は正直者なので、一番印象に残っていることを答えたのだが、それでは面接試験を突破できないらしい。

 

この話を武藤さんにしたら、

 

「正直に答えることは誠実な寛治くんのいいところだけど、社会に出るということは組織で働く事になるんだから、相手に合わせた発言をすることも大事なのよ」

 

と笑顔でアドバイスをくれた。

 

どうやら僕はコミュ障と呼ばれる部類に入るらしい。自分ではそう思うところは全くなく、ただ女性と話すのがちょっと苦手なだけだ。実は就職指導部に毎日のように通っている理由って教員にどうしてもなりたいからではなく、武藤さんが話しかけてくれるからかもしれない。教員なんて実は自分に向いていないんじゃないかなって思い始めていた。。。

 

だけど、卒業式を終えた後でも専任の募集があることをわざわざ電話をかけて教えてくれた武藤さんの恩に報いるためにももう1回だけ受験してみよう。そして、万が一採用試験に合格して専任教員に採用されたら、武藤さんに告白をしよう。「こんな僕に構ってくれて有り難うございました」と。

 

所沢航空大学。明治時代の末期に日本初の航空機専用飛行場の跡地に作られた大学で看板学部は日本唯一の航空学部。大学で4年間学んでもパイロットの資格を得られるわけではないが、さすがにジャンボは置いてないけれど、小型旅客機からオスプレイまで揃っていて、飛行機オタクが憧れる大学No.1である。倍率も航空学部は20倍を超えている。最近は宇宙学科やCA学科とか、なんでもありだが、今ぼくたち学生の数が減少している中では、健闘している大学ではある。

 

僕は飛行機とは無縁な理学部数学科である。高校時代の友達からは「航空大学に理学部なんてあるの?」と驚かれ、大学のサークル仲間からは実験がないので「あっ、文学科ね」と工学系とは認められない学部だ。

 

大学卒業後の進学先はやはりJALやANAなどの飛行機関連が多い。また輸送関係にも結構強く、僕のように教師になろうという学生は数学科でもほとんどいない。数学科の学生の半分以上は航空学部に入れなくて仕方なく理学部に入学したのだ。

 

西武新宿線の航空公園駅の東口を出て、右手に航空公園、左手に団地がある大通りを真っ直ぐに10分ほど歩くと広大な米軍基地があり、その一角に僕の母校も存在する。

 

2週間ぶりに来た母校は特に何も変わっていることはなく、あえて言えば春休みだから、学生がほとんどいない空虚な空間だったということだろうか。いや、多くの生徒は実験棟や工場でレポートの作成や飛行機の整備に勤しんでいる。なんというか、人の接触が少ない大学であり、CA学科ができるまでは、準男子校と呼べる大学だった。女性と話すのが苦手な僕にとっては、4年間数学に没頭できた本当に充実した大学生活を送れたキャンパスだった。

 

だけど、教員採用試験では本当に困った。教師を目指す仲間がいないから情報が得られない。7月に公立学校の採用試験を受けたときは私服の受験生がたくさんいた。それこそジャージで来た人たちもいた。そこで、教員はリクルートスーツを着用しなくていいんだと勘違いしてしまったのがいけなかった。今考えれば、2次試験の運動能力測定だったんだよね。

 

8月に受験したY高校にはポロシャツで受験しにいったんだ。もちろん母校愛を示すために所沢航空大学を表すTKのエンブレムのポロシャツね。もちろん襟付きにしたよ。だけど、面接のときにボロクソに言われたよ。

あれはもう完全に説教だったね。教員は生徒の模範とならなければいけないんだって。だから母校愛を示すために・・・

 

このことを報告したときは、流石に武藤さんの笑顔もひきつっていたなぁ~。

 

まぁ、そんな世間知らずの僕だからこそ、ずっと世間に出なくて良い教師を選んだというのもある。なんというか、スーツにネクタイをしていると、兵隊のような感じで苦しいんだよね。

 

 

「寛治くん、遅いわよ!」

 

いつも笑顔の武藤さん。今日もやっぱり笑顔が最高だ。笑顔がいいというけど、一番のチャームポイントはクリッとした瞳。もうあの瞳に見つめられたら、どんな男だって撃沈だろう。女性が苦手な僕なんかは最初の1ヶ月間はまともに顔を見られないよ。というか最初話しかけられたときは思わず横に1mぐらい跳んでしまった上に転んでしまった苦い記憶が甦ってくる。

 

「分かっていると思うけど、16時までに履歴書を千駄木学園に持って行くのよ。行き方分かる?」

 

僕のことを完全に子ども扱いしてくる武藤さん。

 

「・・・はい、大丈夫だと思・い・・ます。」

 

面談ブースで2人きり。これが緊張をうむんだよな~。

 

「早速だけど、履歴書見せて。大田君はたまに変なこと書くから怖いのよね~。いつだったかしら、10月に受けたX中学だったかしら。キリスト教の学校だからといって、趣味の欄に読書(聖書)とか書いて。まさか、今回は仏教校だからって、趣味の欄に写経とか書いていないわよね?」

 

「はははははっ、まさか。」

 

何で僕の行動が読めるんだ。書こうとした、いや書いた。だけど、そのことを思い出して新しいのに書き直した。正直に言うと、相談しようと思って、その1枚も鞄の中に入っている。これは絶対に見せられないな。

間違えないように、アピールが全く無いほうを武藤さんに差し出す。

 

「う~ん、何も書いていないけど、全く自己PRが書いていないわね。だけど、今回は急だからそれでいいわ。」

 

「と、ところで、、、千駄木学園の募集条件ってどんな感じですか?」

 

「あっ、ごめんなさい。忘れていたわ。ちょっと待っていてね」

よし、きちんと喋れた!目線はテーブルの角をだけど。

 

昨日高校案内を見ていたが、千駄木学園は仏教校の共学。実は今まで私立の学校は男子校しか受験していない。女子高なんてとんでもないよね。だから、本当は千駄木学園も断ろうかなって思ったんだけど、折角武藤さんから電話をもらったので、受けるだけ受けよう。落ちてもいいやって思って、履歴書も頑張らずに簡単に書いた。

 

 

「大田くん、お待たせ。これを見て!」

 

おっ、予想通り、給料はいいようだ。あくまで僕の採用試験の経験値だけど、仏教校は給料が良い。坊主丸儲けってやつだな。逆に意外だったのは、ミッション系学校の給料が安かったということ。きっと教会にお金をむしりとられているんだろうな~。なんだかんだでローマ法王って遊んでいるイメージ有るしね。

 

 

「ところで、千駄木学園がだめなときは、来年度も採用試験諦めずに頑張ると思うけど、どこかで働く予定はあるの?」

武藤さんが覗き込むように話しかけてくる。

 

「ああぁぁ、ほ・本当は予備校の面接試験があったんですけど、キャンセルしてきました。」

 

不意打ちで話しかけられるとどうしても上手く答えられない・・・。集中しないとダメだ!

 

 

「それじゃあ、このお知らせはコピーしたヤツだから、そのままあげるわ。履歴書もこのままでいいから、行ってらっしゃい。そして寄り道せずに戻ってくるのよ。旅行じゃないんだからお土産なんていらないわよ。」

 

「いつも買ってきたお菓子はお土産ではなくて、面接練習をしてくれるお礼ですよ。直ぐに戻ってくるので、面接練習のお付き合い、よろしくお願いします。」

 

なんか子供扱いされている気がしてならないだよな~。まぁ、今までの採用試験の失敗をしている武藤さんはきっと呆れているのか、それもとも僕のことを弟のように可愛がっているのかわからない。きっと可愛がってくれているのだろうと前向きに捉えておこう

 

 

千駄木学園は千代田線千駄木駅から歩いて5分と公立の学校と比べて駅から近くて嬉しい。だけど、この団子坂は結構キツイよ。何度の傾斜なんだろうか?パッと見で10%だから10度くらいかな?ネットで検索したら、江戸川乱歩の「D坂殺人事件」のD坂ってこの団子坂らしい。団子坂を登ると森鴎外図書館もあるし、文豪がここに住んでいたのか~。まぁ、僕は数学の先生だから全く気にならないなんだけどね。

 

それにしても昔ながらの街道なのかコンビニを除くとチェーン店らしきものがない、古い街並みが続いている。山手線内ってもっと大型SHOPがあると思ったけど、そうでもないんだな。あともっと車道と歩道がはっきりしているイメージがあったんだけど、そうでもないんだね。

 

あと、老人も多いんだけど学生も多い。千駄木学園以外にもI高校やK高校とか、東京大学に東洋大学もあるからなのかな。それよりも外国人が多い。地図を持っているから観光なのかな?

 

ネットで検索をかけてみると、ここかは谷中、根津、千駄木という地域を総称して谷根千と言われているらしい。たしかに飴細工の店や、小さな画廊もちらほらと・・・。

 

 

おっ、見えてきたぞ、千駄木学園が。新しい校舎だけど、なんというかコンクリートの打ちっぱなしっていう感じで、あんまり良い印象は無いんだけど、トイレとかはきれいそうだね。あと、なんかアニメの舞台になったとか。

 

高校受験案内にも、芸能人の卒業生がたくさんいるというか、現役のアイドルも在籍しているらしいね。そういう子の担任とかしたら、TVとかにも出られるのかな?

 

「江口君は、在校時はどんな生徒でしたか?」

「非常に真面目でクラスの人気者でしたよ。成績はちょっと悪かったけど・・・」

 

いや、こういうときはあんまり変なことを言っちゃいけないのかな?

 

おっと、そんなことを妄想している学校に着いたぞ。2つある校舎のうち右側にある自動扉に向かう。野球部らしき生徒が「こんにちは!」と笑顔で挨拶してくれる。なんて良い学校なんだ。自分の母校は男子校というのもあるけど、部外者には誰も挨拶してなかったな~。

 

「こんにちは。昨日も来ました、大田と申します。数学科の採用試験を受験に来ました。本日は宜しくお願いします。」

 

「大田先生ですね。そちらでスリッパを履き替えて、そちらのソファにおかけになってお待ちください。」

 

昨日はたまたまだと思ったんだけど、今日も受付は坊主頭の男性だった。普通事務の受付って女性だと思うんだけど、やはり仏教校だからなのかな?

 

まぁ、女性と話すのが苦手な僕からすると、本当に有り難いことだよね。以前、W大学付属高校を受験したとき、受付の女性があまりにもこっちを見つめるから、斜め後ろを見て喋って、気持ち悪がられたからね。あのときは、受験せずにそのまま家に帰りたかったな~。

 

今回はそういう意味でなんか上手くいきそうな気がしてきたぞ。

 

 

受付のお坊さん(?)に案内された会議室には、既に4人の受験者が待機していた。1人は背の高い、すらっとした男性。なぜか五厘の坊主だ。さっきから本を読みながらぶつぶつと独り言を言っている。後ろを通るときにちらっと本をのぞいたら、漢字ばかりが並んでいて・・・あっ、お経か。この人もやはりお坊さんのようだ。

 

残りの3人は、採用試験なのに談笑している。きっと、この学校の講師なんだろうね。スーツでいるのは1人だけだ。2人はセーターであったり、Tシャツであったり。自分が言うのもなんだが、Tシャツはまずくないか?いくらなんでも、さすがの僕でもTシャツで受験はできないよ。だいたい、まだ春じゃないか。面接中にくしゃみをしたら、マイナスポイントだよ。しかし、3人の中にもまたしでも、坊主が1人。いや、ハゲなだけかも。後ろのほうに若干髪の毛があるね。

 

・・・ということは、千駄木学園の門をくぐってから出会った人は6人いるが、そのうち4人がハゲ、もしくは坊主。あっ1人は生徒だけど野球部だから坊主だったってやつね。

 

やっぱり、仏教の学校だけあって、坊主のほうが合格しやすいのかな?残念ながら自分は坊主ではない。スポーツ刈りだ。なぜか自分の髪の毛が長いように感じてくる。恐るべし千駄木学園。

 

さすがに3月末ということもあって、受験者は少ないな。11月に受験したV大学付属高校なんかは100人ぐらいの受験者がいて、それだけで圧倒された。それでも、なんとか筆記試験をパスして、2次試験の模擬授業で終わった。模擬授業をまさか本当のクラスで行なうなんて思いもしなかった。さらにいえば共学校だから、有る程度女子生徒がいるのはわかっていたけど、よりによって模擬授業の教室には女子生徒しかいなかった。別学っていうんだね・・・。初めて知ったよ。

 

そこと比べると、千駄木学園は共学のはずだが、まだ男の人しか見かけていないし、受験生の数も少なくて居心地が良い。この学校で先生になれたら、なんか上手くやっていけそうな気がするな~。

 

さて、人数が少ないとはいえ、ここで昨日武藤さんとした面接練習のおさらいをすると、ライバルに僕のアピールポイントがばれてしまうから、トイレの個室で復習をしてくるかな。

 

 

 

「武藤さんとの面接練習があったからこそ、教えてくれたから僕は合格できました。もし、良ければ今度食事にでも!」

 

まだ、合格してもいないのに、こんなセリフの練習をしても意味ないかな?いやいや、練習はすることに意味があるはずだから、気にするのはやめよう。

 

よし、もう一度最初から。

「教師を志望した理由は教えることが好きだからです。教える事によって、相手からもらえる「ありがとう」という言葉、この言葉を1日に1回もらうのが僕の目標です。」

 

「きみは自分のために教師をしているのかい?」

 

「はい、生徒のためでもありますが、自分のためでもあります。やはり、教員が幸せでないと、生徒を幸せにできないと考えます。」

 

「要するに、君は自己満足のために、生徒を利用しているのかね?」

 

「いえ、そういうわ・・・?」

 

ん?誰か話しかけてきた?

 

「そういうわけではなくて、なんだい?」

 

トイレの個室を出て、周りを覗くと誰もいない・・・。

霊の仕業か?そういえば、この学校の周りにはお墓がいっぱいあるな・・・

 

すると、隣の個室から、水を流す音が聞こえてきた。あっ、隣ね。ホッとした、と思ったら、そこからまた、坊主が現れた。しかも白衣を着た坊主が。

 

「君は今日の採用試験に来た学生かな?」

 

にこやかに質問してきた。

 

「えっ、えっとですね。はい、そうですね。受験生だと思います。」

 

ムッとした顔に変わった。何かいけない発言したか?

 

「常に練習する姿勢は褒められるけど、トイレですることではないね。」

 

「す、す、す、申しわけありません。」

 

おっ、笑ってくれた。なんでだ?

 

「あと、うちの学校の校訓を知っているかい?」

「ぼ、ぼ、忘己利他。お、己を忘れて他を利するは慈悲の極みなりだったと思います。」

 

「『ぼうこりた』ではなく『もうこりた』。自分のことを忘れて相手のために尽くすことだ。自分のために働く教師をうちは募集していないよ。本番ではさっきのようなセリフは言わないようにしない。間違いなく不合格になるよ」

 

「あっ、ありがとうございます。」

 

「では、またあとで。」

 

その白衣の坊主は颯爽と扉を開けて出ていった。「手を洗い忘れていますよ」と声をかけるべきだったかな?

 

まぁ、いいや、会議室に戻ろう。

 

おっとその前に、

 

「坊主になる事に抵抗はありません」

 

これはきっと面接でいう事になりそうだから。あと10回復唱しておこう。

 

 

「それでは、始めてください」

 

最初は数学の試験。もんだいようしを裏返すと大問が2つ。関数とベクトルの問題だった。先に得意のベクトルを解く。大体GMARCHレベルかな?きちんと始点を揃えて、垂直だから内積=0、うんきれいな数字になったから大丈夫だな。空間でもきちんと平面に切り取って考える。うん、完璧だな。

 

さて、関数だけど、最後は体積か。場合分けをして・・・。ん?これは必要十分条件で確認しないといけないやつか・・・ちょっと面倒だな。あれ、きれいな数字にならない。何か条件を間違えたか?もう1回解き直してみるか・・・

 

う~ん、何度解き直しても同じになるな。まぁ、これでいいや。

 

 

続いては作文。「生徒から「数学なんて何の役に立つの?」と質問されたら、あなたは何と答えますか?」というタイトル。

 

「よし!昨日武藤さんが予想したテーマだ。」

「千駄木学園に武藤さんのおかげで合格できました。つきましては~」

 

おっと危ない。試験中に妄想が始まってしまった。さて気を取り直して昨日アドバイスをもらったように、「数学が存在しなかったら2進法がないから、デジタルが存在しないんだぞ。ということはPCやスマホなんか存在しない世の中になっちゃうよ~。それは困るだろう~」という感じで・・・

 

よし、試験終了。そんなに悪くないかな。

面接は受験番号順ということで最後。待ち時間は結構有るので、耳を澄まして、講師らしき人の話を盗み聞きするものの、

 

「やっぱり専任になったら時間割は変更になるのかな?」

 

「いや、既にXさんということで、高校1年の枠で決まっているらしいよ。合格した人がそのXさんの枠に入って、合格した僕らの誰かの枠を今回の試験で落ちた2人のどちらかを非常勤として採用するって聞いたよ」

 

う~ん、どうも既に僕は専任には選ばれないらしく、非常勤講師のセンが濃厚らしい。ということは倍率2倍だからなんとか入れそうだな。

 

「高1ってことは、長谷先生と組むのか~。それは避けたいな~」

「まぁ、確かにその気持ちは分かるけど、専任になれるなら1年間は我慢だろうよ。」

 

ふぅ~ん。長谷先生って評判悪いのね。非常勤になれたら注意しておこうっと。

 

「大田先生、お待たせしました。こちらへどうぞ。」

 

筆記試験が終わってから待たされること1時間。盗み聞きしていた講師が面接で会議室から出て行ったあとは、いろんな質問を想定して返答の準備をしていたけど、途中から、「この学校で教員をしたら、禿げるのかな?」とか妄想がスタートしてしまった。

 

「はい、よろしくお願いします。」

 

 

筆記用具や面接対策の高校受験案内を鞄にしまって事務員のあとに続いて歩く。面接が行なわれる会議室にノックをして入る。そこには坊主が・・・。

 

「えっ、半分も・・・」

 

と口にしそうになったが、なんとかこらえて、指定された席に座る。

 

目の前にいる、どこから見てもさっきまで葬儀に出席していましたという袈裟姿のお坊さんがニコニコしながら

 

「大田先生、初めまして。千駄木学園理事長の筑土です。本日は宜しくお願い致します。」

 

えっ、理事長なの?理事長さをまったく感じさせない。他の学校を受験したときの校長や理事長はもっと威厳があったのに、それこそ右端にいる坊主のほうが怖くて・・・

 

「あっ、さっきのトイレであった白衣の坊主だ!やばい、さっき手を洗わずに出たことを教えてあげるべきだったた・・・」

 

その坊主、いや、面接官の先生はネームプレートに数学科主任の長谷先生と・・・。さっき講師から恐れられていた、あの人か!

「それでは大田先生、自己紹介からお願いします」

筑土理事長ってずっとニコニコしているな~。おかげでこっちもリラックスできそうだ。

 

「私の名前は大田寛治、23歳。先日、所沢航空大学理学部数学科を卒業しました。本日は宜しくお願いします。」

おっ、つっかえずに言えた。久し振りだ。今日はツイてるぞ!

 

 

「学生時代はどんなことに力を注ぎましたか?」

 

「えっ、はい、えっとですね。私は中学からサッカーを始めて、主にGKをやってきました。サッカー、いえGKは唯一フィールドを全て見渡せるポジションであり、キャッチやキックなどの基本的動作だけでなく、視野の広さも要求されます。」

 

・・・。この視野の広さが災いしてさっきから全然集中できない。。。筑土理事長の質問はよくある普通の質問なので、大丈夫なのだが、右端にいる坊主、いや、長谷先生の視線が気になる。明らかにこっちを睨んでいる。トイレで何かしたっけ?アドバイスをもらっただけだし、やっぱり、手を洗わなかったのはわざとで、指摘できるかどうかをテストしたのかな?

 

筑土理事長はありきたりな質問をしてくれる。というかずっと笑顔だ。これは好かれているのかな?

 

「はい、数学以外の得意科目は歴史、い、いえ日本史です。歴史は暗記科目と言われますが、英語でhistoryというようにhis storyであり、そこには浪漫溢れる物語が展開されています。」

 

ん?なんで日本史の話になったんだ?というかなぜ長谷先生ずっと僕を睨まれているんだ?

 

「えっとですね、大好きな歴史上の人物は織田信長です。旧体制をぶち壊し、常に新しいものを取り入れていく姿勢は素晴らしいと思います。教員の仕事は言ってしまえば過去を教えるものです。私は常に学ぶ姿勢を大切にして今を伝えられる教員になりたいと思います。」

 

そうだ、これを言いたいために、自分から歴史のほうへと誘導したんだった。っよし、今日の僕は好調かもしれない。やっぱり面接官に女性がいないと緊張感は80%オフになるね。坊主万歳!

 

 

「数学主任の長谷です。宜しくお願いします。」

 

理事長、校長、教頭の質問はきっとうまくできたと思う。最後の長谷先生の質問。ずっと睨んできているだけに、油断しないように慎重に答えないと・・

 

「大田先生はさきほどの試験問題の出来はどうでしたか?」

 

よし、想定内!

 

「はい、ベクトルの問題は完璧に解けたと思います。関数は答えがきたなくなってしまったので、不安ですが、手順は間違っていないと思います。」

さっきトイレで会話したおかげか睨まれて怖いけど、なんとかドモらずに答えられた。よしっ!

 

「そうかな?ベクトルは確かに全問答えは正しかったけど、必要十分条件の確認がされていないから減点だよね。あと関数は大田先生の言うとおり、間違えていたけど、どこで間違っていたか想像つきますか?」

 

『分かったら試験中に直しているに決まっているだろ!このハゲ!』という言葉を呑み込んで、

 

「えっっと、増減表のところでしょうか?」

 

「いや、そこはあっていたよ。」

 

「で、では、場合分けのところですか?」

 

「いや、そこもあっていたよ。」

 

「そ、それでは、どこでしょうか?」

 

「質問しているのはこちらだよ」

 

こいつ、意地悪いヤツだな~。講師が言っていたのはこういうところか、確かに1年間我慢だな。

 

「すみません、わからないです。お、教えていただけますか」

 

「わからないなら、仕方がありませんね。次の質問に移ります。」

 

おい、この質問意味なくないか?これが社会人になると洗礼として受けるパワハラってやつか!

 

「大田先生、あなたが授業で心掛けていることはなんですか。」

 

そう、そういう質問をしようよ。

 

「はい、いかに生徒にわかりやすく教えるかです。場合によっては放課後なども質問タイムを設けて、生徒が理解できるまで、一つ一つ丁寧に教えていきたいと思います。」

 

どうだ、この熱心な教師像を示した模範解答!

 

「私は、分かりやすく教えると、生徒の考える力が失われるので、その考え方に反対なのだが、君はそれについてどう思う。」

 

えっ、そう返してくるの?こういうときは自分の意見に縛られることなく、相手に合わせていかないとね。

 

「た、確かにそうですね。ご・ご教授いただき、有り難うございます。これからは生徒に考えさせる授業を心掛けたいと思います。」

 

よし、無難な回答だな。

 

「君は自分の主張をそんな簡単に変えるのかね?生徒はそういう先生たちのいい加減さを見抜くよ。君は教師に向いていないね。そういえば、君は自己満足のために教師を目指しているんだっけ?」

 

そこまでいうか!そしてやっぱり覚えていたか!やっぱり手を洗わなかったのは!

 

「い、え、そ、う、いうわけではありません・・・。」これは、確実に落ちたな・・・・。

 

 

こうなったら、前向きにこの人と一緒に同じ職場にならなかったということを喜ぶべきだな。

 

 

 

 

 

10

「もしもし大田ですが、」

学校を出て、白山駅に向かって歩道をとぼとぼと歩いていたら、携帯が鳴った。しかも、いま面接試験でボロボロに叩きのめされた千駄木学園から。

 

 

「私、千駄木学園の数学科主任の長谷です。先程、大田先生を専任教員として採用することが決定いたしました。つきましては、すぐに来年度の準備に向けてお話をしたいと思いますので、帰宅中で申し訳ありませんが、こちらまで戻ってきていただけませんか。」

 

 

えっ、あんなにボロボロに言われたのに採用なの?しかも専任教員?あっ、そうか、みんな、こいつにボロボロにやられたんだな。納得!

 

「ど、ど、ども、どど、どうも有難うございます。一所懸命に頑張らせていただきます。はい、直ぐに戻ります。」

 

採用が決まった嬉しさで、こいつのネチネチした口撃があることを忘れていたよ。学校に戻ったら、応接室で面接試験の続きが始まった。

 

「うちのが学校が天台宗の学校ということは知っているかい?」

 

知っているよ。それぐらい調べたさ。

 

「はい、知っています。それが何か?」

 

「では天台宗の総本山はどこだい?」

 

数学の先生だからって歴史で習っているからそれぐらい知っているさ。

 

「比叡山です。」

 

では「織田信長が比叡山を焼き討ちした件は?」

 

あぁ!なるほど、地雷踏んだわけね。

 

「はい・・・」

 

「知っていて、君は尊敬する人に織田信長を挙げたの?」

 

「・・・・・・」

 

「黙っていては分からないよ。」

 

「深く考えていなかったです。。。」

 

「今日、大田先生の面接をしていて、軽薄というか浅はかな考えだなって思ったよ。数学の試験に関しても、手順は問題ないんだけど、考察が足りないんだよね。そういう軽率な判断をすると、生徒が困るんだよ。君は生徒の一生を背負えるのかい?」

 

ごもっともです。ただ、さっきから、全然来年度の話にならないんですけど・・・。もう1時間もさっきの面接の反省会なんですけど・・・。面接が15分で、なんで反省会が1時間なの・・・。そういえばさっきの講師が言っていたけど、専任ということは同じ高1学年なんだよね。ということは1年間、毎日こういう小言聞くのかな?とりあえず家に帰ったら退職願を書いておこう・・・

 

「さて、来年度の件なのですが、」

おっ、俺の心を読めるのか?そう、そういう話を待っていたんだよ。

 

「高校1年の担任をしてもらいます。」

いきなり担任?

 

「授業は主に数Aです。確率を中心に指導してもらいます。」

やばい、確率は苦手なんだよな・・・。

 

「明日、クラス分けの会議があるので、10時に学校に来てください。」

おっ、本格的な話になってきた。実感が少しずつ湧いてきた。

 

「以上です。」

 

 

えっ、終わり、面談反省会1時間で、大事な要件は1分?

 

「ん?何か不満かい?」

やばい、俺の心を読めるのか?

 

「いえ、そんなことはありませんけど。」

 

「では何か?」

 

「先程から、凄い注意をされているからか疑問なんですけど、何で僕がが選ばれたのでしょうか?」

 

 

「あぁ、君は理事長と誕生日が同じなんだよ。たぶん、それだね。」

 

はい?

 

 

 

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