不登校からのリハビリ

今月はこの本のコラムを取り上げて

長田が思うことをつらつらと

学校ってなんだ! 日本の教育はなぜ息苦しいのか (講談社現代新書)

学校ってなんだ! 日本の教育はなぜ息苦しいのか (講談社現代新書)

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2021/08/18
  • メディア: Kindle版

不登校からのリハビリ

工藤:この“手の掛け方”というのも、ときに大事な問題となってきます。

よくある話なのですが、朝なかなか起きることのできない子どもがいます。お母さんは心配になって毎朝、起こしに行く。しかし、それが当たり前になってくると、子どもは「うるさい」と反抗するようになる。思春期にはありがちなことですが、そのうちお母さんも嫌気が差して、「じゃあ、勝手にしな」と返すことになる。朝は誰の手も借りずにひとりで起きなさいというわけです。すると子どもはひとりで起きる習慣がなかったものだから、ある日、遅刻してしまうんです。「なんで起こしてくれなかったの」とお母さんを責めるんですね。おそらく、日本中の多くの家庭で見ることのできる風景ではないでしょうか。しかし、こんな積み重ねから深刻な断絶が始まることだってないわけじゃない。

不登校の問題も同じです。私や鴻上さんだったら、「まぁ、不登校でもいいよね」「別に学校行かなくたって、いくらでも生きていく道はあるよね」って言っちゃうと思うのですが、家庭によっては、逆に意識しすぎることでむしろ問題を悪化させて、自室にひきこもり状態になってしまうこともあります。それを解決していくためには、やはりそれなりにリハビリが必要です。

 

鴻上:リハビリですか。

 

工藤:麹町中、って不登校の子どもが山ほど入学してくるんです。転校生の中にも多い。

実は不登校状態というのは、変な話なんですけど、安定しているんですよ。不登校であることで安定を保持している。この安定した不登校状態を改善させるためには、リフレーミングといって、もう一度枠組みを作り直す必要があります。

私はまず、ご両親に会って、「お母さん、たいへんだったでしょう。つらかったでしょう」と話しかけながら、不安を解いていきます。「自分の育て方が問題だったのかと思い悩んでいませんか」「お父さんから、お前のせいだと言われたりしていませんか」。そんなことも話しながら、こう伝えます。

 

「不登校はね、お母さんの育て方とかお父さんの育て方とか、まったく関係ないんです。」

 

実際そうなんですよ。「子どもを甘やかした」って後悔している人もいますが、子どもに甘いことが原因でみながみな、めちゃくちゃになるかといえば、けっしてそんなことはない。では、なにが問題なのかー私は続けてこう言うんです。「自分を責めないでください」

 

お母さんが自分を責めたり、あるいは両親が互いを責めたりしていると、子どもに伝わるんですよ。自分のせいで両親が責め合っていることは、多くの子どもが知っている。これ、子どもにとってはつらいことです。そうなれば、子どもはまず自分を責めるようになりますから。子どもにとってはものすごい苦痛ですよ。自分を責めてばかりではやっていけません。同時に、両親のことも責めるようになる。これでは、子どもの自立のスイッチは入りません。だから大事なのは、両親が自然な姿に戻ることなんですね。僕はご両親にこう話します。「まず、不登校である状態が不利じゃないということを、お母さんもお父さんも理解してください」。そのうえでいろいろな情報を伝えます。中学校や高校に行かなくても大学にも進むことはできるし、学校へ行かなくたって問題ないのだと教えてあげるのです。

 

鴻上:ほんとうにそうですよね。一般に思われているほどに、不登校は大した問題じゃない。

 

工藤:そのうえで、ご両親には、「お気持ちや心は、基本的に何も変わらなくていいですよ」と伝えます。大人は、自分の価値観を変えることが出来なければ、行動そのものを変えることができないと思っている。変えるのは難しいんですよ。苦しくなるばかりで、だから「変わる必要なんかない」と言ってあげるんです。ただ、言動についてはしなければいけないことはあります。それは「いいことは続け、だめなことはやめる」。それだけです。

 

具体的にはどうするか。たとえば朝、子どもを起こしに行く。声をかける。しかし、子どもは反抗したり、ときに暴れたりする。これは失敗のパターン。つまり「だめなこと」です。だから次の日は同じ方法を用いない。違う方法を考えます。

 

朝、声をかけてもだめならば、前の番のお互いに落ち着いた状況のときに子供に声をかけてみます。「起こしてほしい?」と聞いてみる。一人で起きることができるのか、何時に起こしてほしいのか、質問してみるのです。起こしてほしいのだと、子どもが意思表示すれば、「何時に起こせばいい? でも、お母さん、起こしに行って文句を言われるのは嫌だな」とも言えばいい。「どうしたらいいかな?」。あらためて子どもに訊ねる。

 

鴻上:つまり、親は子どもを見捨ててはいないのだということを、それとなく伝えるというわけですね。どうするのかと聞くことで、子どもに決定権を与える。尊重されているような気持にもなりますよね、子どもとしては。とても大事なことですね。

 

「子育て四訓」(アメリカ先住民の言い伝えらしい)
乳児はしっかり肌を離すな
幼児は肌を離せ、手を離すな
少年は手を離せ、目を離すな
青年は目を離せ、心を離すな

子どもが成長するにつれて、大人も変化していかないといけない。

常に学ぶ姿勢を携えて、試行錯誤していこう。

 

それは不登校についても同様で、

自分たちの時代のイメージで語らないこと。

これ大事。

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