夢

今月の3の日もこの本のコラムです。

夢

夢は持たなきゃいけないけど、見すぎちゃダメ。夢しか見ていないヤツは足をすくわれる。今を積み重ねられないヤツに、未来なんてあるわけがない。

 

PSVからビーレフェルトへのレンタル移籍は人生最大の決断だった。まさに覚悟を決めた瞬間。そこから肝のすわり方が変わった。それ以前は「俺はやれるんだ」「俺は強いんだ」と自分自身に対して強気な言葉を発していたけど、そういう無意識のカッコつけがなくなった。

PSV1年目は周りの環境に流されて、背伸びをしていたところもあった。本来の自分のプレーを見失い、ケガでもないのに試合に出られなくなってしまった。「絶対にレギュラーの座をつかんでやる」と意気込んだプレシーズンでで、新監督の構想外であることを伝えられた。トレーニングで手ごたえをつかんでいたからこそ、どん底に突き落とされた気分だった。

そこで手を挙げてくれたのがビーレフェルトだった。欧州でも名の知れた名門クラブから、12年ぶりに1部昇格を果たしたドイツの小さなクラブへの移籍。「ここでダメなら、サッカー選手としてのセンスがなかったってことやから、もうしゃあない。どうせなら思い切って楽しんでやろう！」と心の底から吹っ切れることができた。自然に笑っちゃう感じ。もう俺に失うものはなかった。腹をくくって覚悟を決めちゃえば、怖いものなんてないんだ。

そういう経験を通して、今だけに集中することの大切さを実感した。以前は先の事ばかり、未来の事ばかりを考えていて、今がおろそかになっていた。夢は持たなきゃいけないけど、見すぎちゃダメ。夢しか見ていないヤツは足をすくわれる。自分が今やらなくちゃいけない目の前のことだけに集中して、とにかくひとつひとつやるしかないんだ。今を積み重ねられないヤツに、未来なんてあるわけがない。

いろいろメンタルについて勉強してきたけど、そういうことじゃなかった。勉強することも大事だけど、実際に経験して心の底から納得しないと自分にはなかなか変わらない。今まで俺は経験の大切さを信じてこなかった。「経験なんてしなくても、経験せずに結果を出せばいい」と思っていたけど、「あぁ、こういうことだったのか！」と今は思う。サッカー選手としてだけじゃなく、ひとりの人間として、とても大切な学びだった。

俺はビーレフェルトに行って変わった。ステップダウンになるんじゃないかという不安もあったけど、言い訳できない環境に身を置いたら、一気にギアが上がって花が咲いた。その1年後ドイツで得た自信を胸にPSVに戻ったら、思い通りのプレーができた。成長を実感した。大きな壁にぶつかって、何をしてもうまくいかない人も多いと思うけど、思い切って環境を大きく変えることで前に進むきっかけをつかめるかもしれない。