暗記をしない

(学年通信のコラムをそのまま掲載しています)

<暗記をしない>

成績が悪い生徒の特徴の1つとして暗記をしないケースがある。保護者の方や試験前にきちんと暗記をしている生徒からすると信じられないかもしれないけど、結構いる。

そういう生徒に実際に暗記をしない理由を聞いてみて多かったのが、「暗記できない」とのこと。これは暗記とは何かが分かっていないからだと想像できる。暗記とは反復である。

例えば自分の好きな歌手やグループの曲を聴いているとする。ある曲が終わろうとしたときに、自然と次の曲のイントロが出てくるという経験があるだろう。例えばCMの「は・じ・めて~の、アコーム」「ニオイがつかな い、ムシューダ」というフレーズを読むだけでメロディが一緒に流れてくると思う。これが暗記である。人間の脳は暗記する意思がなくても毎日のように反復していると自然に覚えてくれる優れモノなのだ。

数Ⅰを教えているクラスには伝えているのだが、私は円周率πを小数第50位まで言うことができる。ここに書き出すと以下の様になる。

3.14159265358979323846264338327950288419716939937510……

だ。これは中学2年のときに友達から「一緒に円周率を覚えないか?」と誘われたので、通学途中にずっと暗唱していたら、今でも言えるくらいになってしまったのだが、暗記とはそういうものだ。

たぶん暗記できない人は眼で見て覚えようとしても覚えられないから「暗記できない」と言っているのだと推測する。もっと五感をフルに使った方がいい。とくに無意味なものは音読に限る。勝手にスラスラと言えるぐらいまで行おう。私は古典の助動詞を「る・らる・す・さす・しむ・ず・じ・む・むず・まし・まほし・き・けり・つ・ぬ・たり・けむ・たし・べし・らむ・らし・めり・まじ・なり・なり・たり・り・ごとし」と、接続順に音読して暗記した。これも円周率同様に、いつでも言える。

もちろんそこに意味が入るとより覚えやすくなる。だから語呂合わせというのがある。化学の元素記号も「すい・へー・りー・べー……」と唱えるのも、歴史で幕末に開国を迫った国を「あおいふろ」と覚えるのも暗記しやすくするためである。

また、「暗記が出来ない」以外にも「暗記した気になっている」ケースも多い。比叡山研修の非食のときに食前観を唱えたが今でも言えるだろうか。「われ今幸いに~」のあとに続く言葉がパッと出てくるだろうか。続きをここに書くが「あ~、これこれ。」と感じるのは、楽修に置き換えたときの「答えがここまで出かかっているのに……」と同値である。ほとんどの内進生は「仏祖の加護と衆生の恩恵によってこの清き食を受く、つつしんで食の来由をたづねて味の濃淡を問わず、その功徳を念じて品の多少をえらばじ、いただきます」と続けられる。給食時に毎回唱えているのだから当然なのだが、暗記とはそういうものだ。インプット(見る・読む・書く)をしているだけでアウトプット(答える)をしていない生徒は結構多い。

さて、ここから難しい話をするが、本当の暗記とは短期記憶でなく長期記憶に入れることである。

暗記の仕組みを脳科学上で述べると「新たな神経回路の形成」である。例えるなら、場所と場所をつなぐ道路である。何度も通っている道ならばすぐ に行き方がわかるが、1回しかいったことがない道や、昔は通ったが最近通っていない道を思い出せないように、繰り返し覚えないと記憶はできない。

また、記憶には短期記憶と長期記憶がある。パソコンで例えるならばRAMとハードディスクである。部屋で例えるなら、机と本棚の関係である。短期記憶は机の上に本を広げた状態でいつでも見られる状態であるが、何冊も開くことはできない。よって長期記憶という本棚にしまうことで、いつでも取り出して読める状態にしておかなければならないということだ。中学までの記憶する量が少ないケースなら短期記憶でも勝負できるだろうが、高校からは長期記憶にしっかりとしまわないと解答用紙に正解をかけなくなる。長期記憶に入れた場所からきちんと取り出す訓練を積まないといけないのだ。

では、どうやって知識という情報が短期記憶をたどって長期記憶(大脳皮質)に保存されるのだろうか。実は長期記憶にたどり着くためには、海馬という関所を通過しないといけない。海馬とは記憶を「必要なもの」と「不必要なもの」に分ける仕事を行う。

そんな海馬が「必要なもの」として認識する(通過させる)のは第一に「生命に関ること」である。よって英単語や数学の公式など日常生活に関係ないものは簡単に海馬が通してくれない。よって、長期記憶に情報を送るためには海馬を騙す必要がある。簡単に言えば何度も何度も海馬に刺激を送り、「何度も送ってくるのだからきっと重要なのだろう」と海馬に思わせるのだ。つまり、暗記とは反復することで定着するのである。

また、短期記憶から長期記憶に移すには、6時間以上睡眠することが必要不可欠だと言われている。寝ている間に海馬は情報を整理し、不必要なものを捨て、必要なものを長期記憶に保存してくれるのだ。正確なところは分からないが、寝ている最中に海馬が情報を取捨選択しているところが夢となって出現するという説もある。

要するに睡眠時間を削って一夜漬けで暗記するのが短期記憶で、日頃からの楽修習慣を確立して反復しているのが長期記憶である。今までは覚える知識量が少なかったので短期記憶で勝負できたかもしれないが、高校になって点数が下がったなと感じたら、長期記憶に保存するために反復するための楽 修時間を確保して実行すること。アウトプットを増やして長期記憶から引き出す練習をしないといけないのだ。

これを読んで「なるほど~」「あっ、こういうことしていなかった」と感じたらすぐに行動に移してほしい。「明日やろうは馬鹿野郎(2007年に放映された『プロポーズ大作戦』の名言)」を肝に銘じてほしい。

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